もうひとつの、蜜白玉のひとりごと

些細な出来事と記憶の欠片

アルデバラン

月曜日、めずらしく早く帰ってきた夫と近所でラーメンを食べて帰る道すがら、暮れた空を見上げると、彫刻刀でひとすじ引っ掻いたような細い月が目に入った。月を見て、昼間読んだツイートを思い出す。

「今夜、明るく輝く木星と細い月、さらに、おうし座の赤い星アルデバランが並びます。―tenki.jp」

細い月は見える。近くのひときわ明るい星を木星とするなら、アルデバランはどこだ?赤い、赤い。ねえねえ、アルデバランってどれだかわかる?と夫に問えば、おうし座の?と返ってきた。アルデバランが星の名前で、しかもそれがおうし座だって、なんで知ってるのそんなこと?

夫の雑学王っぷり(少なくとも私よりは物知り)は、マンガやアニメから得た知識が多いというから驚きだ。それを聞いてから、自分が小さい頃に漫画を禁止されていたことをつくづく残念に思う。そのせいで、わりと大きくなるまでマンガをどこか一段下に見ていたことも恥ずかしく思う。

そういえば、ここのところ3日とあけずに聴いているサカナクションのアルバム『サカナクション』は、聴きこむほどにどんどん表情を変える気がして、とてもおもしろい。その中に「アルデバラン」という曲がある。星の歌には聞こえなかったから何の歌かと思って歌詞を確かめると、猫の歌だった。

その夜の空のアルデバランは、細い月よりも木星よりもさらに低い位置で赤く鈍く光っていた。家までの道を少し歩いては建物が途切れて空が広がるたびに立ち止まり、あれがアルデバランだよね?と何度ものその名前を口にした。全天21の1等星のうちのひとつ、おうし座で最も明るい恒星、アルデバラン。覚えた、おうし座だし。