もうひとつの、蜜白玉のひとりごと

些細な出来事と記憶の欠片

今年読んだ本◇1冊目~9冊目

今年読んだ本について、読んだらすぐにTwitterにメモするようにした。ときどきこうしてまとめて感想など。

 

◇1冊目:小川洋子(おがわ・ようこ)著『ことり』朝日新聞出版

相方からのクリスマスプレゼント。小鳥のさえずりにじっと耳を澄ます兄弟の話。文鳥、図書館司書など素通りさせてはくれないキーワードがちりばめられている。小川さんはこれを書くのに実際に文鳥を飼ったという。かつて文鳥を飼っていた私は、小鳥を飼うことにはひそやかな楽しみがあると断言できる。この小説にはそのことと、小鳥の繊細さとたくましさがよく表れていた。小鳥好きのため、とにかく前のめりに読んでしまった。今度読むときは落ち着いて読みたい。

 

ことり

ことり

 


◇2冊目:内澤旬子(うちざわ・じゅんこ)著『身体のいいなり』朝日新聞出版

吉祥寺の古本屋「百年」にて購入。万年不調だった身体が乳がんと診断されてからなぜか健やかになっていくというエッセイ。闘病記ではないと内澤さんが断っているように、乳がんになってからこれを読んだらムカつくかもしれないところだった。先に読んでおいてよかった。乳がん、子宮がん、とても他人事ではない。若くてもなるときはなる。そのときは、そういう自分の身体を受け入れて、引き続き生きられるところまで生きていこうと思えるようになりたい。

身体のいいなり

身体のいいなり

 


◇3冊目:石田千(いしだ・せん)著『店じまい』白水社

これも吉祥寺の古本屋「百年」にて。閉店したお店や記憶の中のお店について書いたエッセイ。お店の名前は出てこないけれど、近所だったらもしかしたらわかるかもと思わせる。石田さん独特のリズム感がすごくしっくりとはまる題材である。石田さんのエッセイはこれまでもたくさん読んだけれど、これが今はいちばん好きだろう。

店じまい

店じまい

 


◇4冊目:島本理生(しまもと・りお)著『真綿荘の住人たち』文春文庫

品川駅の駅ナカエキュート」の2階にある本屋さん「PAPER WALL」にて購入。文庫になったばかり。東京・江古田の真綿荘に住む人々の話。ひと癖ある人ばかりでアクの強い感じ。もう少し薄めた方が私の好みではある。何も起こらないくらいがちょうどいい。それでもひとつ屋根の下に住んでいればそりゃあいろいろあるわね。おもしろかった。

 


◇5冊目:中島京子(なかじま・きょうこ)著『小さいおうち』文春文庫

これも品川駅の「PAPER WALL」にて。直木賞受賞作。中島さんはデビュー作『FUTON』を読んで以来、間違いなく尊敬する作家のひとりである。新作が出ればまず読もうとするのだけれど、すっと話に入れないことがときどきある。この『小さいおうち』も直木賞受賞後に読まなければ!と思い図書館で借りたけれど、何でだろうか読めなかった。図書館で借りたのがまずかったか。このたび文庫になったので即購入。すばらしい!読めてよかった。山田洋二監督で映画化の予定。キャストは未発表のため、先日ワインを飲みながら勝手に予測してみた。タキの若い頃、年をとってから、奥様、旦那様の4人。当たったらすごいな。配給の松竹によれば、2013年3月1日にクランクインし、5月31日の撮了を予定しているそう。公開予定は2014年1月。ずいぶん先だけれど、楽しみに待っていよう。

小さいおうち (文春文庫)

小さいおうち (文春文庫)

 


◇6冊目:井上荒野(いのうえ・あれの)著『静子の日常』中公文庫

ツイッターにも少し書いたけれど、どうやら私はおばあさんが主人公のお話が好きらしいということに気がついた。『小さいおうち』も女中のタキがおばあさんになってから昭和初期を回想するお話だったし、この『静子の日常』も静子おばあちゃんの痛快な日々を綴っている。ずっと前に図書館で借りて読んで気に入った。スポーツクラブのあれこれ注意を促すくどい張り紙に、「ばか?」という付箋をつけるところが特に好き。あるとき本屋さんで見かけて文庫で買っておいたもの。今更ながら文庫解説が中島京子さんだったことに気づいて驚く。普段ひとりで完結している読書生活において、こういう偶然のつながりみたいなものが本当にうれしい。読み終えて母に貸したら、母もぐんぐん読めておもしろかったとのこと。

静子の日常 (中公文庫)

静子の日常 (中公文庫)

 


◇7冊目:中島京子(なかじま・きょうこ)著『ココ・マッカリーナの机』集英社文庫

たしか、吉祥寺の古本屋「百年」にて購入。単行本のときは『だいじなことはみんなアメリカの小学校に教わった』というタイトルで、中野区の図書館で借りて読んだ。中島さんが雑誌編集者を辞めて心機一転、日本文化を紹介する教育実習生としてアメリカへ行ったときのお話。悩める女子へ、いや男子もか。小説は聡明で実直な文章と思うけれど、いやいやそれだけじゃない、フッと肩の力が抜けたユーモアやしなやかさを感じて心地よいのは、そうかこういうことか、と中島さんの人柄が垣間見られるエッセイ。

ココ・マッカリーナの机 (集英社文庫)

ココ・マッカリーナの机 (集英社文庫)

 


◇8冊目:伊達雅彦(だて・まさひこ)著『傷だらけの店長』PARCO出版

なんとなく目について杉並区の図書館で借りた。伊達雅彦はペンネームだそうだ。本屋さんの店長が本が好きなために苦しんで苦しんで苦しみぬくお話。最後まで救いがなかった感じ。誰だとかどこの本屋だとか調べればたぶん出てくるのだろうけれどあえて調べず。わかったところでどうだという。本屋さん、古本屋さん、図書館さん、いつもお世話になっております。皆様の努力で今日も本が読めます。ありがとう。私も微力ながらがんばっています。

傷だらけの店長 〜それでもやらねばならない〜

傷だらけの店長 〜それでもやらねばならない〜

 


◇9冊目:大野八生(おおの・やよい)絵と文『夏のクリスマスローズ』アートン

「百年」にて購入。生活系の本がたくさん入ったというお店のツイートを見ていそいそと偵察に行く。テーブルの上に何冊も積み上げられているのを1冊1冊よけながら見ていく。「クリスマスローズ」の文字と淡い色の線画に手が止まる。ふーん。ぱらぱらめくる。取り上げられている草花や、植物への目線がどこかの誰かさんにとてもよく似ている。大野さんは植物好きだったおじいさんの影響で造園家になった。一方で、大学は美大で彫刻を学んでいて、彫刻のためのドローイングからイラストを描くようになった。おもしろい。植物(庭)と絵。好きな物事の先にふたつの仕事があった幸せな例だろう。クリスマスローズ、スミレ、スイセン、彼岸花。名もない(本当は名はあるけれど知らない)足元の草花、なんでも拾ってきてしまうところ。どこかの誰かさんとは亡くなった父のことだ。 

夏のクリスマスローズ

夏のクリスマスローズ

 

 

(2013年2月20日記す)