もうひとつの、蜜白玉のひとりごと

些細な出来事と記憶の欠片

田んぼの青、山の青

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伊豆箱根鉄道駿豆線(すんずせん・別名いずっぱこ)は三島から修善寺までの単線、銀に青の3両編成だ。お見舞いの帰り、伊豆長岡駅で降ろしてもらい、そこからは電車に乗って三島方面へ帰る予定だった。午後3時過ぎ、まだ時間もあるしせっかくここまで来ているのだからと、反対方向の修善寺へ行ってみることにする。

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初めて乗る伊豆箱根鉄道は、律儀な直角のオレンジ色のシートで、お盆の観光シーズンだというのに車内はすいている。旅情気分を味わうべくボックスシートにおさまる。車窓は右も左も田んぼの青、山の青。のどかな日本の風景の中をゆったりと走っていく。

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途中駅のホームには小学校のような水飲み場があったり、なんだか目に映る情景がどれもこれも20年くらいタイムスリップしている。

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終点の修善寺駅には、何もなかった。駅前の通りはそっけなく、蕎麦屋と土産物屋くらいしか見えない。バスターミナルには数台のバスと整然と並ぶ客待ちのタクシーだけだ。タクシーの運転手さんたちは車から降りてだべったり、フェンスに腰掛けてタバコをすったり、暇そうにしている。ここで働いている人たちばかりで、観光客らしき人は数えるほどしかいない。午後4時という中途半端な時間のせいだろうか。

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肝心の温泉はここからさらにバスで10分くらいのところにあるらしい。ふらっと修善寺駅まで行って街をぶらぶらしてすぐ帰るつもりで来たけれど、こう何もないんじゃ話にならない。ええい、乗りかかった船だ、ということで(実際に乗るのはバスだけれど)修善寺温泉エリアまで行って日帰り温泉に入ることにする。

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バスは橋を渡って坂を上ってすぐ着いた。降ろされたところからまた少し歩く。日枝神社の前を通過し、修善寺に到着。お寺だ。修善寺の前には川が流れ、橋の赤い欄干が目立つ。これぞ温泉郷という景色だ。お参りもそこそこに日帰り温泉へ向かう。

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入湯料350円、タオル100円を券売機で買い、帰りのバスが18分だから、じゃ5時に、と言ってお風呂へ。ここもすいている。大きなお風呂をほとんど独り占めだ。それでも熱くてあまり長くは入っていられない。湯から上がると汗がとまらずふきだし、なんとか着がえて脱衣所から出て行くと、ちょうど相方も反対側から出てきた。ゴーン。5時の鐘か、修善寺の鐘だろうか。

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バス停の横のお店で母にわさび漬けを買い、バスに乗る。再び修善寺駅から伊豆箱根鉄道を端まで乗る。終点の三島に近づくにつれて、家々が電車に迫ってくる。三島に着くとそこはすっかり現代の、見慣れた町の姿をしている。さっきまでの田舎の風景や温泉が夢の中の出来事のようだ。夏の夕方の気だるさと風呂上りの爽快感、そして手元にある温泉名の入った薄いタオルが、行き当たりばったりの、思いつきの旅の証だ。

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